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ノルウェーサーモンは危険?
「ノルウェーサーモン(アトランティックサーモン)」と検索すると「最も危険な食べ物」「抗生物質」「遺伝子組み換え」「ダイオキシン」「殺虫剤の使用」「エサ用に大量の魚を乱獲している」などなど、ノルウェーサーモンの危険性について驚くような内容がいくつも出てきます。
ノルウェーサーモンが危険だという内容の記事が拡散され検索上位に上がり、さらに多くの人の目にさらされ留まるところを知りません。日頃、口にする機会が多いだけにびっくりしてしまいますよね。こんな検索結果を見れば、誰だって食べるのが怖くなって当然です。
実際はどうなのでしょうか?
厳しく管理されているので危険はない
ノルウェーの科学委員会では、「週に1kg以上食べたとしても健康に害を及ぼすことはない」と発表しています。
また、ノルウェーサーモンが養殖されている現場を見ると、きれいな澄んだ海で非常に厳しく管理されているのがわかります。今回は、それらの内容について国際ルールに基づいたデータを基に解説してみたいと思います。
《 ポイント 》
- きれいな澄んだ海で養殖していて、非常に厳しく管理されている。
- 「週に1kg以上食べたとしても健康に害を及ぼすことはない」と発表。
ノルウェーサーモンが危険というのはデマ?
抗生物質について
ノルウェーサーモンに対する抗生物質使用料を表しているグラフを見ると一目瞭然です。そのひとつに、ノルウェーの肉とサーモンに使用した抗生物質の量を比較したものを見ると、肉1キロ当たり「175mg」なのに対して、サーモンへの使用量はわずか「0.00036mg」にすぎません。
確かに30年以上前までは、抗生物質や化学物質を養殖サーモンにたくさん使っていました。その30年の間に、サーモンの生産量は5万トンから120万トンに大幅に増え、逆に抗生物質の使用量は99.9%削減されています。
殺虫剤(エトキシキン)について
殺虫剤のエトキシキンがエサに混じって使われていることについてです。ノルウェーサーモンのエサには、魚を乾燥して砕き粉状にした「魚粉」を使っています。この魚粉を船舶で輸送する際に、エトキシキンを使用することが義務付けられており、その使用料についてはWHOで定められています。
過去一年間に日本には21万トンの魚粉が輸入されていますが、もしエトキシキンの使用が許されていないとしたら国内で養殖されているハマチやマダイなど、輸入した魚粉をエサにしている養殖魚はどうなってしまうのでしょうか。
ダイオキシンについて
毎年11,000尾のサーモンを検査した結果によると、「ダイオキシン」「PCB」「重金属」のレベルは、EUの制限値をはるかに下回っていることがわかります。
ノルウェーのデータが捏造されていない限り、養殖サーモンよりも天然のサーモンの方が、またサバやニシンと比べてもダイオキシンやPCBの含有量は高いという結果がでています。
エサ用に大量の魚を乱獲している?
ノルウェーでは、サバやニシンなど成長すれば食用にできる魚を、小魚のうちに獲るようなことはもったいないので行っていません。養殖サーモンには、ニシンを魚粉(フィッシュミール)にしたものをエサとして与えていますが、魚粉にするのは、頭、骨、内臓などの可食部を取り除いた残渣(アラ)です。
食用にしていないイカナゴのような魚は、丸ごと魚粉にしていますが、しっかりと資源管理されていますので「乱獲している」とは言えないでしょう。
小さな場所にぎゅうぎゅうに押し込まれている?
ノルウェーサーモンの養殖場でのサーモンの比率はわずか2.5%でそれ以外は海水と、環境にとても配慮しています。
実際の養殖場は、広いフィヨルドの中にポツンとあり、狭くて窮屈な所にサーモンを押し込んだ過密養殖とはかけ離れた健全な環境の中で育てられています。
《 ポイント 》
- ここ30年の間に抗生物質の使用量は99.9%削減されている。
- 魚粉輸送する際は、殺虫剤(エトキシキン)の使用が義務付けられている。
- サバやニシンを小魚のうちに乱獲するようなことはしていない。
- 過密養殖とはかけ離れた健全な環境で育てている。
チリ産サーモンも危険と言われている
2016年頃からでしょうか、ノルウェーサーモンの危険性だけでなく、チリ産のサーモンの危険性について話題にあがるようになりました。チリでは、「地元の人は決して食べない」と言われている理由は何でしょうか?
抗生物質と殺虫剤の使用量
チリ産は「抗生物質」と「殺虫剤」、このどちらの使用量も世界的な生産量を誇るノルウェーサーモンを大幅に上回っているということのようです。それが正しいデータによるものだとしたら、なぜ、それほどの薬や殺虫剤が必要なのでしょうか?
それは、そもそもサーモンはチリの海にはいなかったため、ノルウェーや日本海に住むサーモンにとっては、ウイルスや海ジラミなどに対しての耐性が低いのが理由でしょう。
「地元の人が食べない」と言っているもう一つの理由は、「抗生物質」と「殺虫剤」の大量摂取が人間にとって危険だということの他に、サーモンを養殖することによって、周りの環境を破壊しているからです。
大量の抗生物質や殺虫剤は、サーモンに使われた後、海の中に垂れ流し状態になり、そこにいる他の生物たちに悪影響を与えてしまいます。その結果、魚や貝、カニなどが採れなくなって、その漁に携わる漁師さんたちが廃業に追いやられてしまったのです。
チリではサーモンの養殖が漁師さんたちの仕事が無くなる原因なのですから、そんな憎い相手が手掛けたサーモンを食べたくないと思うのは当然でしょう。
遠く離れた日本では、廃業した漁師さんの心理はともかくとして、抗生物質と殺虫剤をクローズアップさせて記事を書いているのが実情のようです。
チリ水産庁の厳格な抗生物質管理
チリでは養殖サーモンに与えている抗生物質として「経口投与」と「注射」の二種類を使用しています。これらの抗生物質は、担当魚医が作成した診断書と処方箋がないと購入することができません。
また、チリの養殖業は規模が大きく、養殖会社ごと専属魚医がチームを組んで死因の特定や症状の調査を行っています。そして薬剤の使用明細やその効果、在庫数のデータをチリ水産庁へ提出することが義務付けられています。
さらには、養殖場と加工場の両方に対して水産庁の抜き打ち訪問が頻繁にあり、魚や使用している薬品の検査が行われています。このように、小規模養殖業者が中心の日本とは取り組み方が大きく異なり、幾重にも安全性確保の対策が徹底された管理下で養殖が行われているのです。
実際に、このようなこの現場を目の当たりにしている人からしてみれば、名前も出さない人が適当にチリ産サーモンを「抗生物質まみれ」としている記事を見ると驚いてしまうかもしれませんね。
《 ポイント 》
- 抗生物質と殺虫剤の使用量が不安視されている。
- 養殖サーモンのせいで漁師さんたちが廃業に追いやられている。
- 安全性確保の対策が徹底された管理下で養殖が行われている。
養殖サーモンが危険かどうかの意見はさまざま
様々な国から輸出されている養殖サーモンですが、その中でも輸出量が群を抜いて多いのが「ノルウェー産」と「チリ産」で、世界に輸出している養殖サーモンの大半を占めています。これほどの大量のサーモンをコンスタントに輸出することは、普通の飼育方法では難しいでしょう。
確かに、エサに抗生物質や殺虫剤が混ぜ込んであり、常に抗生物質に満たされた水の中で生活することになるので、「養殖サーモンは薬漬け」と言われるのも頷けますよね。ですが、一概にはそう言い切れないのです。
養殖サーモンに限らず、情報の信ぴょう性はどうであれ、興味をそそる話題はあっという間に拡散されてしまいます。ネット上では面白みのない真実よりも、面白いウソの方がどんどん拡散していくというわけです。
今回の記事を例にとっても、「地元の人は養殖サーモンを絶対に食べない」の真意は、「薬まみれだから」という理由だけではないことがわかりました。
養殖サーモンが危険かどうかの意見はさまざまで、この噂はデマに過ぎないと言い張る人もいます。どこまでが嘘なのかを見抜ける人でないと、養殖サーモンを食べることは難しいかもしれませんね。
ちなみに、日本に輸入する場合、全体の数%ですが厳しい抜き打ち検査がされています。今のところ抗生物質、殺虫剤、ダイオキシンの残留の成分は出てきていないようなので、ある程度は安全安心して食べることができると思います。
ですが、何事もリスクがゼロとは言い切れませんし、他にサーモンよりも、もっと危ない食材も存在します。このような記事が出回ると、そういったものが浮き彫りにされて食に対する危険性を考えるきっかけになりますので、いい機会を与えられたと思っていいのではないでしょうか。
現実的な話として忘れてはいけないことは、チリでは環境汚染がかなり進んでいるようです。そして養殖場のために職を失っている人が大勢いることも事実です。
もし、抗生物質や殺虫剤などの残留成分が気になるようでしたら、天然もの、もしくはノルウェー産をおすすめします。ただし、地球上の海は全部繋がっていることを忘れないでくださいね。
《 ポイント 》
- 養殖サーモンが危険かどうかの意見はさまざまある。
- どこまでが嘘なのかを見抜ける人でないと難しい。
最後に
ノルウェーサーモンは危険ではありませんでしたね。サーモン好きな方にとって、安心して食べられる手がかりになったでしょうか
?日本はもちろんのこと、アメリカやEUをはじめ世界中で輸入した養殖サーモンを使ったメニューが増えています。
アメリカやEUでの食品輸入の衛生基準は日本に比べてかなり厳しいため、問題のある食品を流通させているとは想像できません。それなのに、なぜノルウェーサーモンの噂に関するデマが広がったのか、安全でないと言われる理由は何なのかがわかったのではないでしょうか。
いずれにせよ、誤った情報や知識不足からくる情報が拡散されて悪影響を与えていることは否めません。それに対する確実な答えが見つけられないのも事実ですが、この記事ではそのための手掛かりの一つになったら嬉しいです。