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イタリアを楽しむために知っておきたい“タブー”とは?

イタリアは、美しい街並みや歴史的な芸術、世界中の人を魅了する料理など、訪れる人を惹きつけてやまない国です。
しかし、その豊かな文化の中には、日本とは異なるマナーやタブーがいくつも存在します。知らずに行動すると、現地の人を驚かせたり、不快な思いをさせてしまうこともあります。
この記事では、日本人が無意識にやってしまいがちな「イタリアでのやってはいけないこと」を、文化の背景とともに紹介します。知識として覚えるだけでなく、「なぜそれがNGなのか」を理解すれば、旅の中でより深くイタリア文化を感じられるでしょう。
イタリアでやってはいけないこと【食のタブー】

イタリアにとって食事は単なる栄養補給ではなく、人生の楽しみそのものです。「食べる」ことが「語らう」ことであり、料理は人と人をつなぐ文化の中心にあります。
そんなイタリアでは、食卓のふるまいひとつにも“美意識”が息づいています。
1. ピザにケチャップやマヨネーズをかける
イタリアのピザは、もともと完璧なバランスを追求して作られた料理です。
生地、トマトソース、モッツァレラ、オリーブオイル。これらの組み合わせは、職人が何世代にもわたって磨いてきた黄金比です。そのため、ケチャップやマヨネーズを加えるのは“味を壊す行為”と受け取られてしまいます。
もし味を変えたいなら、卓上のエクストラバージンオリーブオイルやピリッと辛いペペロンチーノオイルを数滴垂らすのがイタリア流。それだけで、素材の香りが一層引き立ちます。
2. スパゲッティを切ったり、すすったりする
イタリアでは「料理を美しく食べること」も礼儀のひとつ。麺をすすって音を立てるのは、食事を台無しにする行為とされています。
長いスパゲッティをナイフで切るのもNG。フォーク1本で少しずつ巻き取るのが理想的です。スプーンを使うのは子どもの食べ方とされ、大人が使うと少し滑稽に見えてしまうこともあります。
イタリア人は静かに、そして楽しげに食事をすることを美徳としています。
3. 午後にカプチーノを注文する
カプチーノは、ミルクたっぷりの朝の飲み物。イタリアでは「朝食=カプチーノ+クロワッサン(コルネット)」が定番です。
昼食後や夜にカプチーノを飲むのは、胃に重いと考えられています。代わりに、食後はエスプレッソ(イタリア語で“カッフェ”)を飲むのが習慣です。
もしエスプレッソが濃すぎると感じるなら、「カッフェ・ルンゴ(お湯で少し伸ばしたもの)」や「カッフェ・マッキアート(少量のミルク入り)」を頼むとよいでしょう。
4. 料理をシェアして食べる
日本では複数の料理を少しずつシェアするのが一般的ですが、イタリアでは「一人一皿」が基本です。
食事はその人のために用意されたものであり、取り分けることは「自分の料理を他人に譲る」行為とみなされることもあります。もちろん家庭やピッツェリアのカジュアルな場では柔軟ですが、レストランでは避けたほうが無難です。
もし一口味見したい場合は、「Posso assaggiare?(少し味見してもいい?)」と断ってからにしましょう。
5. コース料理を急かす
イタリアでは食事は“人生を楽しむ時間”です。料理の提供が遅くても、それは「作り立てをゆっくり味わってほしい」という文化的リズムの表れ。日本のように「スピーディー=サービスが良い」とは限りません。
むしろ、焦って「次の料理を早く」と催促すると、落ち着きのない印象を与えてしまいます。食事の合間にワインを少し飲みながら会話を楽しむ――それがイタリア流の時間の使い方です。
イタリアでやってはいけないこと【挨拶・日常マナー】

イタリアの人々は、人とのつながりを何よりも大切にします。「挨拶」は礼儀ではなく、相手を人として尊重するサインです。
少しの言葉を交わすだけで関係が温かくなり、旅がもっと楽しくなるはずです。
6. 入店・退店時に無言で出入りする
イタリアでは、店に入るときも出るときも、店員に一言声をかけるのが当たり前です。
「Buongiorno(こんにちは)」「Buonasera(こんばんは)」「Grazie(ありがとう)」――この3つだけで十分です。
こうした一言は、相手を“同じ社会の一員”として扱う大切なマナー。笑顔を添えるだけで、対応も一気に柔らかくなります。
7. 店員に断らずに商品を手に取る
イタリアの小さなお店や市場では、商品はお客ではなく店員が扱うのが一般的です。これは昔ながらの対面販売の名残で、「店員の手を通して商品が動くこと」が信頼関係の証でもあります。
興味のある商品を見たいときは、「Posso toccare?(触ってもいいですか?)」と聞くと丁寧です。この一言があるかないかで、店員の対応は大きく変わります。
8. おばあちゃん(ノンナ)の好意を断る
イタリアの家庭に招かれたら、必ずノンナ(おばあちゃん)の存在に出会うはずです。彼女たちは家族の象徴であり、愛情を惜しみなく注ぐ存在です。
「食べなさい」と勧めてくれるのは、まさにその愛の証。満腹でも、「少しだけいただきます(Un po’ basta, grazie)」と笑顔で返せば、それが最高の礼儀になります。
ノンナの料理には、家庭の味と歴史が詰まっているのです。
9. チップを渡しすぎる
イタリアでは多くのレストランでサービス料(Coperto)が会計に含まれています。そのため、チップは義務ではなく「感謝の気持ちを表す小さなジェスチャー」。お釣りの小銭を残す、または端数を切り上げる程度で十分です。
チップを多く渡すよりも、笑顔で「Grazie mille!(本当にありがとう!)」と言葉で感謝を伝える方が、イタリアらしいお礼になります。
イタリアでやってはいけないこと【観光・宗教施設】

イタリアには数えきれないほどの教会、美術館、歴史的建造物があります。それらは単なる観光スポットではなく、人々の信仰や誇りが息づく場所です。
そのため、訪れる際には観光客としてのマナーと、現地の人々への敬意が求められます。
10. 教会で露出度の高い服を着る
イタリアの教会は神聖な祈りの場です。肩や膝が出る服装は不適切とされ、入場を断られることもあります。
特に夏場の観光では、軽装になりがちですが、ストールや羽織を一枚持っておくと便利です。「服装を整える」という行為そのものが、信仰への敬意を示すものとして受け止められます。
バチカン市国などでは、服装チェックが厳格に行われているので注意しましょう。
11. 教会で帽子やサングラスを外さない
イタリアでは、宗教施設に入るときに帽子やサングラスを外すのが礼儀とされています。これは「神の前では飾りを取る」という意味を持つ古い習慣に由来します。
男性が帽子を脱ぐのはもちろん、女性も大きなサングラスを着けたままでは無礼な印象を与えてしまいます。入口に入る前に帽子を軽く取るだけでも、敬意を示すジェスチャーになります。
12. 教会の中でフラッシュ撮影をする
荘厳なステンドグラスや壁画を写真に収めたくなる気持ちは分かりますが、教会内ではフラッシュ撮影が原則禁止です。フラッシュの光が絵画や彫刻の劣化を招くほか、祈りを捧げている人々の邪魔にもなります。
撮影可の場所でも、音を立てず静かに行動することが大切です。“静寂もまた教会の美しさの一部”――そう感じられたら、旅の深みが増すでしょう。
13. 公共広場や階段に座り込んで飲食する
ローマやフィレンツェなどでは、街並みや建物自体が文化遺産です。
そのため、スペイン広場の階段や教会前の段差などに座って飲食することは禁止されています。条例で罰金が科されるケースもあり、ローマでは最大400ユーロになることも。
食べ物や飲み物は、カフェや公園のベンチで楽しむのがマナーです。景観を守ることが、街全体の美しさを未来へ残すことにつながっています。
イタリアでやってはいけないこと【ジェスチャー・会話】

イタリア人の会話には、言葉と同じくらい「手の動き」が使われます。そのため、観光客が面白半分で真似をすると、思わぬ誤解を招くことがあります。
イタリアでの身振り手振りには長い歴史があり、どれも意味を持つ「文化の言語」なのです。
14. 顎の下を指で弾くジェスチャーをする
顎の下に指を当てて前方に弾くしぐさは、イタリアでは「あなたの言うことなんてどうでもいい」という強い拒絶のサインです。
冗談で使っても相手を不快にさせてしまう可能性があります。イタリアでは感情をストレートに表す文化だからこそ、誤ったジェスチャーは“本気の侮辱”と誤解されることがあるのです。
表情や態度で感謝や笑顔を伝える方が、ずっと好印象です。
15. 指差しをする
イタリアでは、人を指差すのはとても無礼な行為とされています。特にレストランで店員を指差して呼んだり、会話中に相手を指すのは避けましょう。
指先ではなく手のひら全体を使って方向を示すのが丁寧なやり方です。イタリアでは「相手の存在を尊重すること」が人間関係の基本です。小さなしぐさにもその精神が表れています。
16. 「美味しい」のジェスチャーを勘違いして使う
日本のテレビなどで見かける「頬に指を当てて回す」しぐさ。実はイタリアでは、子どもに対して「おいしいね」と伝える時の仕草です。大人がすると幼稚に見えてしまうため注意が必要です。
本場では「Buono!(ボーノ)」や「Squisito!(スクイジート:最高に美味しい)」と口にするのが自然です。言葉そのものに感情を込めるのが、イタリア流の表現方法です。
17. 政治・宗教・お金の話題を持ち出す
イタリア人は社交的で話好きですが、政治や宗教、個人の収入に関する話題は避けるのがマナーです。親しい関係であっても、これらは非常にデリケートなテーマです。
日本人が「軽い雑談」として聞いても、相手にとっては無礼な質問になる場合があります。会話の話題に迷ったら、食べ物や旅行、サッカーなどの明るい話題を選ぶと良い印象を持たれます。
イタリアでやってはいけないこと【防犯・公共マナー】

イタリアでは、観光客を狙ったスリや置き引きが少なくありません。また、公共交通機関のルールも日本とは異なる部分があります。
安全で快適に旅をするために、注意すべきポイントを押さえておきましょう。
18. バッグを背中にかける
混雑したバスや地下鉄、観光地では、バッグを背中に回すとスリに狙われやすくなります。バッグは常に体の前に持ち、ファスナーは閉めるようにしましょう。
現地の人々も前掛けスタイルが基本です。また、カメラを首から提げたまま歩くのも避けた方が安全です。イタリアでは「自己防衛も旅のマナー」という意識が根づいています。
19. 公共交通機関でチケットを刻印しない
イタリアのバスや列車では、乗車前または乗車直後にチケットを刻印機に通す必要があります。刻印がないチケットは無効とされ、検札で発覚すると高額な罰金を取られることがあります。
現地では当たり前のルールなので、旅行者が知らずに違反してしまうケースが後を絶ちません。駅や車内にある黄色または緑の小型機械が刻印機です。忘れずに利用しましょう。
20. 無表情・無反応で会話を終える
イタリアでは、言葉と同じくらい“表情”が重要です。無表情で「ありがとう」と言って立ち去ると、冷たく感じられてしまうことがあります。
軽く笑顔を見せたり、手を軽く上げて「Ciao!」と返すだけでも、印象がまったく違います。
イタリア人にとって会話は“感情を共有する時間”。感謝や好意を表すリアクションを忘れないことが、良いコミュニケーションにつながります。
まとめ

イタリアは、食、芸術、歴史、そして人の温かさに満ちた国です。その魅力を本当に楽しむためには、観光地を巡るだけでなく、現地の人々の価値観や生活のリズムを理解することが大切です。
マナーやタブーを知ることは、単に「失礼を避けるため」ではなく、文化への尊重のあらわれです。
イタリアでは、時間をかけて食事を楽しみ、相手の目を見て挨拶を交わし、日常の中で人とのつながりを大切にします。これらの習慣は、私たちが忘れがちな「人と過ごす時間の豊かさ」を思い出させてくれます。
現地でその文化に触れることで、旅は単なる観光ではなく“学びの体験”へと変わります。
旅先での小さな心配りや笑顔は、言葉以上に相手に伝わります。郷に入っては郷に従う気持ちで行動すれば、イタリアの人々はきっと笑顔で応えてくれるでしょう。
文化を理解し、敬意を持って接することで、あなたの旅はより深く、温かいものになるはずです。









