目次
鯉のぼりの数え方
爽やかな青い空を、気持ちよさそうに悠々と泳ぐ鯉のぼり。大空をダイナミックに泳ぐ姿は見る人の心を幸せにしてくれます。そんな清々しい鯉のぼりの正しい数え方とは何でしょうか。
実は、鯉のぼりを「1匹」「2匹」と「匹」と数える数え方は正しくないんです。どう数えたらいいかというと、「旒」と書いて「りゅう」と数えるのが正解です。
「旒(りゅう)」という字は、見たことも聞いたこともないという方がほとんどかと思いますが、旗やのぼりを数えるときに使う単位ですので、鯉のぼりも「一旒(いちりゅう)」「二旒(にりゅう)」と数えていきます。
鯉のぼりものぼりの一種と考えれば、「旒」になるのでしょうが、「旒」の他にも「流」と書いて「りゅう」または「ながれ」と数えることもあるようです。とはいえ、通常の会話の中で、いきなり「一旒(いちりゅう)」なんて言われても、「ん?」と首を傾げられてしまいますよね。
なので「一匹」「一尾」「一枚」「一本」「一つ」など、使い慣れたわかりやすい単位を使った方が無難なのかもしれませんね。テレビでは「匹」を使っているのを聞いたことがありますし、通販では「一セット」「一点」という表現をしているなど様々です。
他にも、本物の鯉の数え方に「折(オリ)」があります。「一折」は鯛を数える時にも使われているようで、折り箱に入れられたものや、折り詰めになったものの数を表現する場合に使う数詞です。恐らく、化粧箱に入れて運ばれるような高級魚に「折」が使われるのではないでしょうか。
《 ポイント 》
- 鯉のぼりの数え方は「旒」と書いて「りゅう」と数えるのが正解。
- 普段は使い慣れたわかりやすい単位を使った方が無難。
- 鯉のぼりや鯛などの高級魚には「折」が使われる場合もある。
鯉のぼりの由来
鯉のぼりの数え方の正解は「りゅう」でしたね。ここでは鯉のぼりの由来についてご紹介します。
鯉のぼりを揚げる意味
鯉のぼりは、中国のとある伝説に由来していますが、実は日本独自の風習です。江戸時代の中期に武家で始まった「端午の節句」なのです。端午の節句に、富裕な町民たちによって男の子の誕生と健やかな成長や出世を願って、紙や布などに鯉の絵を描き、縁起のいい生き物として家の庭先に飾ったのが始まりです。
次第に外に飾る幟(のぼり)にも鯉が描かれるようになり、そこから風を含ませてなびかせる鯉を吹き抜けにしたといわれています。外に飾る吹流しを鯉の形にした「のぼり」が「鯉のぼり」というわけです。
当初は大きなものではなく、幟(のぼり)についていた小さな旗に過ぎませんでしたが、描かれた鯉が泳ぐ姿が人気となり、徐々に大きくなっていったといわれています。
本来は黒い色の「真鯉(まごい)」だけでしたが、明治時代から「真鯉(まごい)」と「緋鯉(ひごい)」の対で揚げるようになり、昭和の時代に入った頃から家族を象徴するものとして、青い色の「子鯉(こごい)」を加えるようになりました。
また、鯉のぼりには天の神様に来てもらうための「目印」という役割、そして我が家を継いでくれる男の子が生まれましたという「お披露目」の意味もあります。ご存じのように、歌川広重の「名所江戸百景」のひとつ、「水道橋駿河台」にも鯉のぼりが描かれています。
中国の伝説とは?
鯉のぼりは、中国の神話や伝説に登場する「龍」が関係しています。中国の黄河の上流に、龍門と呼ばれる滝があり、その難所を登り切った鯉が竜になるという「登龍門伝説」があります。
この登竜門伝説にあやかり、日本では男の子の立身出世の象徴として飾られたということのようです。生命力の強い鯉はとても丈夫な魚で、きれいな川でなくても生きていくことができることから、子供が人生の困難に打ち勝って強くたくましく育ってほしいという願いを込められています。
吹流しと矢車の意味
黒い鯉の上に泳いでいる五色の吹流しは、中国の「陰陽五行説(いんようごぎょうせつ)からきており、木・火・土・金・水の五行を表しています。他にも二本の線が引いてあるものは「子孫繁栄」を願うなど、吹流しにはとても縁起のいい意味を持つものが使われています。
また、竿の先に付いている「矢車」は、天の神様へ子供の誕生をお知らせする目印として、「矢」は、邪悪なものを射るという古くから伝わる魔除けの意味を持つとされています。このように江戸時代から続く鯉のぼりには、吹流しや矢車にもきちんとした意味が込められているのです。
《 ポイント 》
- 男の子の誕生と健やかな成長や出世を願って家の庭先に飾ったのが始まり。
- 天の神様が来る目印、家を継いでくれる男の子が生まれたお披露目の意味もある。
- 滝を登り切った鯉が竜になるという「登龍門伝説」が由来。
- 吹流しや矢車にもきちんとした意味が込められている。
鯉のぼりの色の違い
鯉のぼりの数え方以外に気になるのは鯉のぼりの色が何色あるのか?です。ここでは鯉のぼりの色と違いについてご紹介します。
鯉のぼりの色について
- 五色の「吹き流し」は子どもの安全や幸せを祈願し神様へ報告する
- 黒色の「真鯉」はお父さん
- 赤色の「緋鯉」はお母さん
- 青色の「子鯉」は子ども
このように、現在の鯉のぼりは、「真鯉」「緋鯉」「子鯉」で家族全体を表しています。
「子鯉」は主に青色の鯉のぼりを揚げますが、子どもが多い家では黄色や緑色、女の子が好むピンク色やオレンジ色といった華やかな色彩の鯉のぼりを追加することもあるようです。歴史によって大きく飾り方が変化しており、各色の鯉が持つ意味も異なるということがおわかりいただけるでしょう。
地域による違い
江戸時代の鯉のぼりは、関東では金色や銀色のきれいな色彩で、実際の鯉よりも華やかに表現されていました。それに対して、関西では黒い鯉や赤い鯉は濃淡で表現され、実物の鯉に近い上品な彩色が好まれていたようです。
また、関東と関西の中間に位置する静岡では、どちらのタイプの鯉も作られていたようです。
鯉のぼりの素材
江戸時代の鯉のぼりは和紙で作られていましたが、戦後に和紙の生産が激減し、綿や化学繊維の鯉のぼりが多く作られるようになりました。
そして昭和30年頃からはナイロン製の生地にプリントした鯉のぼりが広まり、現在ではポリエステルや化学繊維で作られたものが主流になっています。
《 ポイント 》
- 「真鯉」「緋鯉」「子鯉」で家族全体を表し鯉が持つ意味も異なる。
- 黒色「真鯉」はお父さん、赤色「緋鯉」はお母さん、青色「子鯉」は子ども。
- 関東は「金色や銀色」、関西は「黒や赤」、静岡はどちらの色も使われていた。
- 江戸時代の鯉のぼりは「和紙」、現在は「ポリエステル」など。
鯉のぼりと端午の節句
ここでは鯉と端午の節句についてご紹介します。
5月5日の「こどもの日」とは?
現在「こどもの日」と「端午の節句」は、現在は同じ日の行事を指していると思われがちですが、この2つは由来も意味も異なるものです。
1948年に日本国憲法(祝日法)によって定められた「国民の休日」のひとつに、5月5日を正式に、こどもを大切にする日の祝日とした「こどもの日」があります。このとき法律に定められた趣旨は「こどもの人格を重んじ、こどもの幸福をはかるとともに、母に感謝する」となっています。
鯉のぼりはこの「こどもの日」が制定されるよりずっと以前から、すでに日本文化として確立していました。次は「端午の節句」の歴史を見てみましょう。
鯉のぼりの由来である「端午の節句」とは?
鎌倉時代から江戸時代にかけて形作られた「端午の節句」は、奈良時代に中国から伝わった風習で、その後日本独自に変化した行事です。「端午」とは、「端=最初」「午=午の月(うまのつき)現在の5月」を祝う風習のことです。
この「午の月の最初」である現在の5月上旬は、春から夏へ切り替わる時期なので、季節の変化により体調を崩しやすかったようです。病気は邪気によるものと考えられていた当時は、邪気払いとして端午の節句に菖蒲(しょうぶ)を飾り、菖蒲を入れたお風呂に入って無病息災を願っていました。
なぜ菖蒲かというと、その後時代の武家では、「菖蒲=勝負」や「菖蒲=尚武(しょうぶ:武を重んじること)」を連想したからです。それが徐々に、「端午の節句=男の子の元気な成長や立身出世を願うための行事」となったのでしょう。
鎧兜の数え方は?
鯉のぼりの他にも端午の節句に飾る五月人形があります。男の子の成長を願い、大切な命を守るために鎧兜を飾る風習が受け継がれているご家庭もあります。この鎧は、うなじや首、襟のことを指す「領(りょう、またはくだり)」「着(ちゃく)」「具(ぐ)」と数えます。
また、鯉のぼりの数え方は「りゅう」でしたが、兜は頭にかぶるものとして数える場合には、「頭(かしら)」、兜飾り一式として数える場合は「具(ぐ)」の他に、「装い(よそい)」と数えます。
五月人形の弓矢の数え方
五月人形には、鎧兜の両脇に弓矢が飾られている物もありますが、この弓矢の数え方は少し複雑です。弦を張った弓は「一張(いっちょう)、二張…」または「張り(はり)」と数える場合もあります。弓は弦を張って使うものと言うことから「張」が使われるようになったと言われています。
また、弦を張っていない状態の弓を数えるときは「本」を使うのが一般的で、他にも「筋(すじ)」「条(じょう)」などと数えるときもあるようです。弓と矢がそろった状態は「具(ぐ)」となります。
《 ポイント 》
- 国民の休日のひとつ5月5日を「こどもの日」と制定。
- 現在の5月の初めを「端午の節句」として、邪気払いをして無病息災を願う。
- 五月人形は男の子の成長を願い、大切な命を守るために鎧兜を飾る。
- 鎧兜の数え方は「領」「着」「具」。
- 弓矢は弦を張った状態は「張」、張っていない状態は「本」「筋」「条」、弓と矢がそろった状態は「具」と数える。
最後に
鯉のぼりの数え方についてご紹介しましたが、いかがでしたでしょうか?鯉のぼりを魚としてではなく、幟(のぼり)として数えるとしたら、「匹」ではなく、幟を数える数え方と同じく「流(ながれ)」になるのでしょうね。
それらを頭の片隅に置きつつ、普段使うわかりやすい数え方がいろいろあるということでした。「旒(りゅう)」や「流(ながれ)」が正しいとわかっていても伝わりにくいので、話をするときには「匹」でも良いのではないでしょうか。
言葉というものは時代背景とともに変化していきます。普段あまり意識しないウサギの数え方もそうですが、物の単位って難しい反面、その理由を紐解いてみると結構面白いですよね。他にも意外な単位がありそうなので、それを調べてみるのも楽しいかもしれません。