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タクシー運転手にとって嫌な客とは?

タクシーの車内は、わずか数十分間だけ見知らぬ他人同士が密室で二人きりになるという、非常に特殊な空間です。運転手は接客のプロであると同時に、乗客の命を預かる安全運転の責任者でもあります。
彼らが「困ったな」と感じるのは、単に態度が悪い客だけではありません。実は、運転手が最も恐れているのは「自分の免許(仕事道具)」や「営業の継続」を脅かされることです。
悪気がない一言でも、それが交通ルールを無視した要求であれば、運転手にとっては生活を破壊しかねない死活問題になってしまうのです。
タクシー運転手が困る嫌な客15選

現場の運転手に話を聞くと、日々さまざまな葛藤があることが分かります。
読者の皆さんも、過去の自分を振り返って「あ、これはやっていたかも……」と思い当たる節がないか、チェックしてみてください。
1. 泥酔して車内で吐いてしまう
最も敬遠されるのが、自分を制御できないほど泥酔した客です。
車内での嘔吐は、単に掃除をすれば済む問題ではありません。強烈な臭いが残れば当日の営業は中断せざるを得ませんし、専門業者による脱臭が必要になれば、数日間の売上が完全に消えてしまいます。
これはクリーニング代だけでなく「休車損害」を請求される可能性もある重大な事案です。
運転手の生活を止めてしまう実害があることを認識し、限界を感じる時は乗車を控える配慮が求められます。
2. 上から目線で威圧的な態度をとる
「運ばせてやってるんだ」という態度は、密室ではダイレクトに運転手の精神を削ります。
乱暴な言葉遣いや威圧的な指示は、運転手の緊張を無駄に高め、かえって判断ミスを誘発しやすくなります。
現在は多くの車両にドライブレコーダーが設置されており、悪質な暴言は「カスタマーハラスメント」として記録される対象です。
お客様としての品位を保つことが、結果として自分への丁寧なサービスに跳ね返ってくることを忘れてはいけません。
3. 駐停車禁止の場所で「降ろして」と言う
「交差点の角でいいよ」という客側の気遣いのつもりの指示。実はこれ、運転手にとっては非常に困る要求です。
交差点付近やバス停などの駐停車禁止場所で止まれば警察の取り締まり対象となり、違反点数と反則金を科されるのは運転手だけです。
たとえ客の指示であっても、責任を負うのはハンドルを握るプロ自身。自分の免許に傷をつけながら仕事を続けさせるような無理強いは避け、安全に止まれる場所まで待つのがプロへの敬意です。
4. 「急いで」とスピードを強要する
自分の遅刻を挽回させるために、スピード超過や無理な割り込みを求める行為です。
「信号無視してでも行って」と言われても、運転手には道路交通法を遵守する義務があります。焦った運転で万が一事故が起きても客が法的責任を肩代わりすることはないのです。
運転手に過度なリスクを押し付けるのではなく、余裕を持って予約するか、遅れることを覚悟してプロの安全運転に身を任せるのが、本来あるべき賢い利用者の振る舞いです。
5. 曲がる直前に「そこ右」と指示を出す
ルートを知っている客が、曲がる直前になって指示を出すパターンです。
大型の車両は急には曲がれず、無理な操作は後続車との衝突事故に直結します。急ブレーキを余儀なくされる運転手は、常に大きなストレスを強いられています。
道を指定したい場合は、目安として早めに、余裕を持って伝えるのが鉄則です。最初から「ナビを使って」と指示を出すのも、お互いにとって安全で確実に目的地へ着くための有効な方法といえます。
6. 無言でスマホの地図画面を突き出す
行き先を言葉で伝えず、スマホの画面を運転席に突き出す行為です。
走行中に手元の小さな画面を凝視するのは、前方不注意による事故を招く恐れがあり非常に危険です。また、走行中の視認性は悪く、正確な目的地を把握するのに時間がかかることもあります。
プロに正しく伝えるためにも、必ず住所を読み上げるか大きな施設名を「言葉」で伝えるべきです。スムーズな出発を助けることが、結果として到着を早める近道になります。
7. タバコや香水の臭いがきつい
密閉された車内では、乗車直前まで吸っていたタバコの残り香や、きつすぎる香水はシートに深く染み込みます。
運転手自身が我慢できても、次のお客様から「不潔な車だ」とクレームを受ければ、換気と消臭のために営業を中断せざるを得ない状況に追い込まれます。
自分にとっては日常の香りでも、狭い空間では他人に実害を与え得ます。乗車前の一服を控えるなどの配慮が、タクシーという公共空間の質を守ることにつながります。
8. わずかな運賃を1万円札で払う
数百円の運賃に対し、当然のように一万円札を出すケースです。
特に出庫直後の時間帯などは、車内に備えている千円札の数に限りがあります。釣銭が不足すると、運転手は仕事の手を止めて両替場所を探すために営業機会を失うことになります。
少額利用が分かっている場合は、あらかじめ小銭を準備しておくか、電子決済を利用するのが現代のマナーです。運転手の「お釣り切れ」は、そのまま営業終了の危機に直結するのです。
10. 呼んだのに指定の場所にいない
アプリで配車を依頼しておきながら、指定場所と違うところにいたり、他社の車に乗って去る行為です。
向かっている運転手は、その場所へ辿り着くまでの時間と燃料を完全に無駄にされます。「空振りの配車」は運転手の士気を著しく低下させる重大なマナー違反です。
GPSのズレを確認し、指定した位置で待つ。それが、便利な配車機能を維持し、結果として自分や他の利用者がタクシーを捕まえやすくするためのルールです。
11. 自動ドアを自分の手で閉める
良かれと思ってドアを自分の手で無理やり閉める行為です。
日本のタクシーの多くは運転席からの操作で動くシステムを採用しており、外から強い力を加えるとレバー連動部への衝撃やモーター故障の原因になります。
特に電動式の場合、修理代は高額で、その期間は車両を動かせなくなります。タクシーのドアは運転手の操作に任せ、完全に閉まるのを静かに待つのが一番安全です。
親切心のつもりが、実は運転手を最もヒヤリとさせているかもしれません。
12. 車内を汚したりゴミを放置したりする
飲食による食べかすを散らかしたり、飲み残しのボトルを放置したりする行為です。
これらは次のお客様への迷惑になるだけでなく、運送約款上の汚損とみなされる場合もあります。「ゴミの放置」は清掃不備として運転手の評価を下げる実害があります。車内は自分の部屋ではなく、あくまで公共の場を借りているという意識が大切です。
どうしても必要な場合は一言断り、ゴミは必ず自分で持ち帰る配慮が、お互いの気持ち良い空間を守ります。
13. 走行中に運転手のプライベートを詮索する
逃げ場のない車内で、運転手の年収や休日の過ごし方などを根掘り葉掘り聞く行為です。
運転手は仕事として丁寧に対応しますが、見ず知らずの他人に土足で踏み込まれるのは苦痛でしかありません。過度な詮索は運転への集中力を削ぐことになり、間接的に事故のリスクを高めます。
良好なコミュニケーションは大切ですが、仕事中の相手であることを忘れず、節度を持った距離感を保つことが、乗客としての正しい礼儀といえます。
14. 備え付けの装備に文句をつける
「ドラレコを消して」や「ナビを使わずに俺の言う通りに走れ」といった要求です。
ドラレコは事故や防犯のための重要な装備であり、多くの車両で活用されています。これを拒否されると、運転手は身を守る術を失い、不安の中で運転することになります。
また、ナビは渋滞回避や最短ルート算出の強力なツールです。プロの仕事道具や安全対策に対して理不尽な注文をつけるのは、円滑な運行を妨げる迷惑行為になりかねません。
15. 決済が終わる前に降車しようとする
キャッシュレス決済を行った際、端末の「完了」を確認せずにドアを開けてしまう行為です。
通信環境によってはエラーが出ることもあり、立ち去った後に決済失敗が判明すると「未払いトラブル」に発展します。その後の事務手続きや警察への相談が必要になれば、運転手の貴重な営業時間が数時間も奪われます。
端末から「決済完了」の音声や表示が出るまで席を立たないことが、現代の支払いにおける鉄則です。
タクシーにとってありがたいお客様とは?

逆に、運転手が「この人を乗せてよかった」と心から安心し、より丁寧なサービスを提供したくなるお客様もいます。
過剰なサービスは不要ですが、ちょっとした気遣いがあるだけで、車内の空気は驚くほど変わります。
乗降時に一言挨拶をくれる
ドアが開いた瞬間の「お願いします」と、降りる際の「ありがとうございました」。このたった一言があるだけで、車内の空気は一気に和らぎます。
運転手は「信頼できるお客様だ」と安心し、プロ意識が高まるものです。人間同士のリスペクトを感じられる瞬間こそ、長時間の激務の中での大きな精神的支えになります。
挨拶一つで、その移動時間が単なる作業から心地よいサービスへと変化するのです。
行き先と希望ルートを最初に伝える
「〇〇まで、ナビ通りでいいですよ」あるいは「〇〇通りを通ってください」と最初に方針を宣言してくれる客は、運転手にとって最高にありがたい存在です。
走行中にルート選定で悩むリスクが消えるため、運転だけに100%集中できるからです。最初に情報をすべて開示してくれる潔さは、事故防止と円滑な運行を支える大きな助けとなります。
曖昧さを排除することが、お互いにとってのメリットに繋がります。
曲がる場所を早めに教えてくれる
曲がるポイントが近づいたとき、目安として早めに教えてくれる配慮です。
これにより、運転手は余裕を持って減速し、スムーズな進路変更が可能になります。急ブレーキを避けられることは、乗り心地の向上だけでなく、後続車との事故防止にも直結します。
運転手の心理的負担を劇的に減らしてくれる、最も実用的で「プロを助ける」気遣いといえるでしょう。この一言が安全な運行の鍵を握っています。
小銭や電子決済をあらかじめ用意している
財布をあらかじめ用意していたり、キャッシュレス決済をスムーズに完了させたりする協力的な姿勢です。
多忙な路上での停車時間は、後続車への迷惑や追突事故のリスクを伴います。降車時の手際の良さは運転手への最大のエールとなります。
端数が出ないよう計算してくれたり、端末の操作を理解していたりする配慮は、現場では非常に喜ばれます。スムーズな降車はプロの効率的な仕事を支える重要な要素です。
安全に止まれる広い場所を指定してくれる
「あそこの少し広いスペースで止めてください」といった、周囲の交通を考えた指示です。
警察の取り締まりや後続車の状況を気にせず、安全にドアを開けられる場所を一緒に探す姿勢は、運転手にとってまさに「救いの神」です。
運転手の免許と後続車の安全を尊重するその振る舞いは、まさにスマートな大人の利用術といえます。お互いの安全意識が、タクシーというインフラの質を高めることに繋がるのです。
トランク使用の有無を乗車前に伝える
大きな荷物がある際、手を挙げる段階でそれを示したり、乗車時に「トランクをお願いします」と即座に伝えたりする行為です。
運転手が車を降りてサポートする準備を迅速に行えるため、乗車時のタイムロスが大幅に削減されます。
混雑した路上では数秒の遅れが渋滞を招くこともあるため、こうした細かな段取りの共有が、街中のスムーズなタクシー運行を陰で支えている重要なマナーとなります。
渋滞や工事を運転手のせいにしない
渋滞や事故、道路工事による遅延を冷静に受け止める姿勢です。これらは運転手の努力ではどうにもならない不可抗力であり、運転手自身も焦りや申し訳なさを感じているものです。
「大変だね」と寄り添う心の余裕があるお客様に対しては、運転手も「なんとか最短で行けないか」と知恵を絞りたくなります。
イライラをぶつけず、状況を共有する姿勢が、結果として最も良い移動環境を作り出すことになります。
「いい客」でいることは、自分を守るための戦略

タクシーは究極の密室だからこそ、車内の空気一つで運転の精度やルートの提案力が変わる、極めて人間味の強い乗り物です。
マナーを守ることは単なる善意ではなく、運転手の集中力を高めて最短・安全な移動を引き出すための、利用者側の賢い戦略といえます。
無理な要求でリスクを負わせるより、プロを味方につけてスマートに目的地へ着く。そんな「大人の余裕」を持つことが、結果として自分自身の移動時間を最も豊かにしてくれるはずです。









