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欧米の牡蠣にまつわる言い伝え「Rのない月」
日本ではあまり馴染みがありませんが、欧米では「Rがつかない月は牡蠣を食べるな」という言葉があります。これは英語の各月のスペルに含まれる文字「R」に基づいており、その意味を理解するために、まずは具体的に月ごとの違いを見ていきましょう。
英語で「R」が入る月
英語の月名に「R」が含まれるのは、以下の8ヶ月です。
- 1月:January
- 2月:February
- 3月:March
- 4月:April
- 9月:September
- 10月:October
- 11月:November
- 12月:December
英語で「R」が入らない月
一方、「R」が含まれていないのは次の4ヶ月です。
- 5月:May
- 6月:June
- 7月:July
- 8月:August
つまり、この言葉は5月から8月の初夏から夏にかけて牡蠣を食べるのを避けた方が良い、という意味合いを持っています。
英語圏では広く知られているこの言い伝えですが、日本には同じような言葉として「花見過ぎたら牡蠣食うな」があります。これらがなぜ生まれたのか、具体的な理由を見ていきましょう。
「Rがつかない月」を避けるべきとされた背景
この言葉が生まれた歴史的背景には、衛生環境の問題や牡蠣の生態に関連した理由があります。当時の状況を知ると、なぜそのような言葉が必要だったのかがよく理解できます。
冷蔵技術が未発達だった時代の衛生的な理由
18世紀頃のフランスでは、現代ほど冷蔵技術が整備されておらず、気温が高い5月から8月は牡蠣がすぐに傷みやすい時期でした。傷んだ牡蠣を食べることによる食中毒が頻繁に起きたため、この期間を避けることが習慣として根付いたのです。
牡蠣の産卵期による品質低下
また、5月から8月は牡蠣の産卵期にあたり、この時期の牡蠣は産卵に伴い身が痩せて栄養価も味も落ちます。そのため、この時期の牡蠣は食用として適していないと判断されたことも理由の一つです。日本でも、同様の理由から春以降の牡蠣は避けられる傾向がありました。
こうした歴史的な事情はありますが、現代ではその状況が大きく変化しています。
冷蔵技術の発展と現代の牡蠣事情
かつて牡蠣の食用が避けられていた夏季ですが、現在では状況が大きく変化しています。冷蔵・流通技術が飛躍的に向上したことにより、牡蠣の安全性と鮮度保持が大幅に改善されました。
そのため、以前のように季節を厳密に限定する必要がなくなっています。また、養殖技術の進歩により、通年で新鮮な牡蠣が流通するようになりました。
現代では夏の牡蠣も美味しい理由
特に岩牡蠣の場合は、夏に旬を迎えることが特徴です。
岩牡蠣は6月頃から9月頃にかけてゆっくりと産卵を行うため、夏場でも味が落ちることがなく、濃厚で旨味の強い牡蠣を楽しむことができます。特に日本海側を中心に夏の味覚として定着しており、観光地では旬の岩牡蠣を提供する飲食店が増えています。
また、真牡蠣(マガキ)に関しても、近年では産卵しないように品種改良された三倍体牡蠣などの養殖が進んでいます。これらは年間を通じて美味しく食べられるため、「Rがつかない月」でも市場で見かけることが増えてきました。
こうした変化により、かつての言い伝えは実際の食生活においては徐々に意識されなくなりつつありますが、それでも牡蠣の旬を知ることで、より美味しく食べられることも事実です。
牡蠣の種類ごとに異なる旬の時期
牡蠣には種類ごとに旬があり、それを知ることで美味しい牡蠣を選ぶことができます。スーパーなど一般的な店舗で見かけることが多いのは主に真牡蠣ですが、牡蠣の旬や産地の違いを知ることで、食べる楽しみが広がります。
真牡蠣(マガキ)のベストシーズン
真牡蠣の一般的な旬の時期は、11月から翌年4月頃までとされています。特に冬場から春先の2月から4月は、牡蠣が成長して身がふっくらと厚みを持ち、旨味も豊富になるため「牡蠣が最も美味しい時期」と言われます。
さらに、あまり知られていませんが真牡蠣には「第二の旬」と呼ばれる時期があります。それは5月から6月にかけての産卵直前のタイミングです。この時期は産卵に向けて栄養分をたっぷりと蓄えるため、ミネラルが非常に豊富で、味も濃厚な牡蠣を楽しむことができます。
夏が旬の岩牡蠣(イワガキ)
岩牡蠣は真牡蠣とは異なり、夏場に旬を迎えます。6月から9月が主な旬の時期ですが、地域によっては早ければ3月頃から提供される場合もあります。
岩牡蠣は殻が大きくて厚く、身も真牡蠣に比べて大ぶりで濃厚な味わいが特徴です。特に暑い時期に食べる岩牡蠣は、みずみずしさと豊かな磯の香りがあり、多くの人を魅了しています。
牡蠣の種類や旬に合わせて、安全面でも気をつけるべき点がいくつかあります。
牡蠣を食べる際に注意したい食中毒のリスク
牡蠣は栄養価が高く美味しい一方、食中毒のリスクがある食品でもあります。特に生で食べる場合は、季節を問わず細心の注意が必要です。
冬に多いノロウイルスのリスク
牡蠣による食中毒の代表的な原因の一つはノロウイルスです。ノロウイルスは特に冬季に流行し、毎年11月頃から2月頃が感染のピークとされています。
牡蠣を含む二枚貝に蓄積されやすいこのウイルスは感染力が非常に強く、僅かな量でも感染・発症するため、生牡蠣を食べる際は特に注意が必要です。ノロウイルスの感染予防には、中心部を85度以上で1分以上加熱することが推奨されています。
夏季に多い腸炎ビブリオ菌のリスク
一方、夏季に特に注意が必要なのが腸炎ビブリオ菌です。この細菌は海水温が上昇すると増殖が活発になり、生食用の牡蠣でも汚染のリスクがあります。ただし、低温保存(10℃以下)と60℃以上で10分以上の加熱調理により、安全に食べることができます。
季節を問わず、適切な調理や鮮度管理が牡蠣を安全に美味しく楽しむための基本です。
牡蠣は一年中楽しめる食品に変わってきている
「Rがつかない月は牡蠣を食べるな」という言葉が生まれた背景には、衛生面や牡蠣の産卵期に由来する味の問題がありました。
しかし、現代では冷蔵技術や養殖技術の進化により、これらの課題はほぼ解消され、一年を通して牡蠣を楽しめるようになっています。
また牡蠣には真牡蠣と岩牡蠣という種類があり、それぞれの旬を意識することで、より美味しい牡蠣を選ぶ楽しみが広がります。もちろん、食中毒のリスクには年間を通して注意が必要ですが、適切な衛生管理と調理方法を守れば安全に楽しむことができます。
伝統的な言い伝えは歴史的な知恵として受け止めつつ、現在の状況に合わせて柔軟に牡蠣を楽しむことが大切なのです。