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パワハラと指導を分ける3つの判断基準

パワハラと指導は、「指導のつもりだったか」だけでは区別できません。
厚生労働省は、職場のパワハラを、優越的な関係を背景とした言動であり、業務上必要かつ相当な範囲を超え、労働者の就業環境を害するものと示しています。
この3つの要素をすべて満たすかを個別の状況に照らして判断します。
客観的に見て、業務上必要かつ相当な範囲で行われる適正な業務指示や指導は、パワハラには該当しません。判断にあたっては、相手が不快に感じたという一事情だけでなく、目的、内容、伝え方、頻度、当事者の関係などを総合して考えます。
なお、本記事は民間企業の職場を主に想定しています。国家公務員については、人事院規則10―16など別の制度が関わる場合があります。
人事院の相談対象は職員区分によって異なるため、人事院や所属機関の案内を確認してください。
1.優越的な関係を背景とした言動か
優越的な関係は、上司と部下のような役職上の上下関係だけを意味するものではありません。
業務上必要な知識や経験を特定の人に依存している場合や、複数人から言動を受けて抵抗しにくい場合なども含まれることがあります。
そのため、同僚から同僚、部下から上司への言動であっても、関係性によっては対象になり得ます。反対に、役職が上というだけで、すべての注意や指導がパワハラになるわけでもありません。
相手がその言動を拒否したり、抵抗したりすることが難しい関係だったかを確認します。
2.業務上必要かつ相当な範囲を超えているか
指導との境界で特に重要なのが、業務上の必要性と方法の相当性です。注意する必要があったとしても、その必要性だけで言動のすべてが正当化されるわけではありません。
「何を指導する必要があったか」と「どのように伝えたか」を分けて確認することが大切です。具体的には、次の点を見ます。
- 実際のミスや問題行動に基づく指導か
- 業務と関係のある内容に絞られているか
- 問題の程度に対して、言葉や態度が過度ではないか
- 必要以上に長時間続けたり、何度も非難したりしていないか
- 人格や存在を否定したり、能力を一方的に決めつけたりしていないか
- 私生活へ不必要に立ち入っていないか
たとえば、重大な事故を防ぐため、その場で強く制止しなければならない場合もあります。
ただし、緊急の指示が必要だったことと、その後も人前で侮辱したり、長時間責め続けたりすることは別の問題です。
3.就業環境が害されているか
就業環境が害されるとは、身体的・精神的な苦痛によって、仕事を続けるうえで看過できない支障が生じることです。
業務に集中できない、出勤や職場での行動が難しくなるなど、仕事への具体的な影響も確認します。
注意を受けた本人が不快に感じたことだけで、直ちにパワハラと決まるわけではありません。反対に、指導者が問題ないと思っていたことだけで、適切な指導と決まるものでもありません。
同じような状況で社会一般の労働者が、仕事を続けるうえで看過できない程度の支障を感じるかという視点を基本に、言動の目的や内容、続いた時間と回数、周囲への公開範囲、当事者の関係、本人の心身の状況などを含めて判断します。
言動の頻度や継続性も判断材料になりますが、強い身体的・精神的苦痛を与える言動は、1回でも就業環境を害する場合があります。
パワハラと指導の境界を具体例で確認する

同じ注意や業務命令でも、状況や伝え方によって判断は変わります。特定の言葉や行為だけを切り出して一律に判定するのではなく、指導の必要性と方法を合わせて確認しましょう。
ミスや遅刻について注意する場合
業務上のミスや遅刻について注意し、改善を求めること自体は、通常の指導として必要になる場合があります。
適切な指導では、起きた事実、業務への影響、今後直してほしい行動を具体的に伝えます。
一方、必要以上に長く責め続ける、過去の失敗を何度も持ち出す、仕事と関係のない性格まで否定するといった対応は、指導の範囲を超える可能性があります。
「何度教えたら覚えるのか」といった一つの発言も、その言葉だけで判断せず、言い方、回数、場所、前後に続いた発言まで確認する必要があります。
人前やメール・チャットで注意する場合
チーム全体で共有しなければならない問題もありますが、本人への指導と、周囲への業務上の情報共有は分けて考えます。
個別に伝えれば済む内容を大勢の前で強く責めたり、侮辱を含む文章を多数へ送信したりすると、本人の評価を必要以上に傷つけるおそれがあります。
メールやチャットでは、改善してほしい事実と行動を簡潔に伝え、感情的な非難や見せしめのような共有は避けましょう。
難しい仕事や多量の業務を任せる場合
育成のため、本人の現在の能力より少し高い水準の仕事を任せることはあります。
必要な説明や支援があり、経験、期限、業務量を踏まえて達成可能な範囲であれば、育成の一環になり得ます。
一方、十分な教育をしないまま到底達成できない目標を課し、できなかったことを理由に厳しく責める場合は問題になります。
仕事の難易度だけでなく、期限、ほかの業務との重なり、質問できる環境、必要な権限が与えられているかも確認します。
仕事を与えない・担当から外す場合
本人の経験、能力、健康状態などを踏まえて業務量を調整したり、事故を防ぐために一時的に担当を変更したりすることには、合理的な理由がある場合があります。
その際は、変更の理由や今後の見通しを説明することが大切です。
合理的な理由なく、仕事を取り上げたり、能力や経験に見合わない単純作業だけを長期間させたりする対応は、パワハラに当たる可能性があります。
「指導しなかったこと」と「意図的に仕事や役割を奪ったこと」は区別して考えましょう。
私的な用事や業務外の作業を求める場合
担当業務に直接含まれていなくても、職場の運営に必要な付随作業を依頼することはあります。
一方、上司個人の買い物や家庭の用事など、仕事と関係のない作業を立場を利用して強制する場合は問題になります。
「社会人としてのマナー」「昔から行っている」といった説明だけで正当化せず、職場の業務として必要か、特定の人だけに偏っていないかを確認します。
適切な指導を行うための進め方

適切な指導は、単に穏やかな口調で話すことではありません。問題となった事実を整理し、改善すべき行動と必要な支援を明確にすることが基本です。
指導の目的と事実を整理する
指導を始める前に、何が起きたのか、業務へどのような影響があったのか、何を改善する必要があるのかを整理します。
腹が立ったことと、業務上改善すべきことを混ぜないようにしましょう。
自分が過去に受けた指導方法を、そのまま現在の部下や後輩へ使うことが適切とは限りません。以前から行われている方法であっても、今回の目的や状況に合っているかを改めて確認します。
人格ではなく仕事上の行動を伝える
「能力がない」「やる気がない」「この仕事に向いていない」といった広い評価では、本人は何を直せばよいのか分かりません。
それだけでなく、言い方や状況によっては人格を否定する言動にもなり得ます。
指導では、人格ではなく、確認できる事実や仕事上の行動に焦点を当てることが重要です。「提出期限を過ぎている」「確認せずに処理した」など、問題になった行動を示したうえで、次回から求める対応を伝えます。
場所・時間・伝え方を選ぶ
周囲の前で伝える必要がない内容は、落ち着いて話せる場所で個別に伝えます。注意する時間も必要な範囲にとどめ、同じ非難を言葉だけ変えて繰り返さないようにします。
ただし、危険な作業を止める場合などは、その場で簡潔かつ明確に指示する必要があります。
緊急の安全指示と、原因や改善策を話し合う指導を分けると、必要な制止をためらわず、その後の感情的な叱責も避けやすくなります。
改善方法と確認時期を具体的に示す
問題点を伝えるだけでなく、どの状態を目指すのか、何を変えるのかを具体化します。
たとえば、作業手順を再確認する、提出前に上司の確認を受ける、一定期間後に進捗を振り返るなど、次に取る行動を共有します。
経験不足が原因であれば、説明、研修、作業時間の確保など、本人が改善するための支援も必要です。達成が難しい条件を残したまま、本人の努力だけを求めないようにしましょう。
必要に応じて指導内容を記録する
重要なミスが続く場合や、継続的な改善指導が必要な場合は、指導した日時、確認した事実、伝えた内容、本人の説明、合意した対応、次回の確認時期を記録します。
記録は、相手を処分するためだけのものではありません。前回と異なる要求をしていないか、必要な支援を行ったかを、指導する側が確認する材料にもなります。
ただし、業務改善指導書などの書面を作成したという形式だけで、指導内容や方法が適切になるわけではありません。
指導しないこと自体がパワハラとは限らない

パワハラを恐れて必要な指導を避けると、本人が改善の機会を得られず、ほかの従業員の負担が増えることもあります。適切な指導まで控える必要はありません。
ただし、指導しないことや育成が不十分なことを、そのままパワハラと呼ぶこともできません。
仕事を与えない、業務に必要な情報を意図的に共有しない、集団で孤立させるなどの具体的な行為がある場合は、優越的な関係、業務上の必要性・相当性、就業環境への支障という3つの基準に戻って確認します。
管理職が判断に迷う場合は、指導を完全にやめるのではなく、人事担当者や上位管理者へ相談し、目的と方法を整理してから伝える方法があります。
判断に迷ったときは事実を整理して相談する

パワハラに当たるかは、個別の言葉だけでなく、当事者の関係や言動の経緯を含めて判断されます。指導した側も受けた側も、印象だけではなく、次の事実を整理しましょう。
- 言動があった日時と場所
- 誰が誰に伝えたか
- 実際に使われた言葉や指示の内容
- 続いた時間と繰り返された回数
- 注意や指導に至った経緯
- 同席者、メール、チャットなどの記録
- 業務や心身へ生じた影響
指導する側は、人事担当者や上位管理者へ事前に相談することで、必要な指導内容と伝え方を見直せます。
指導を受けた側は、社内の相談窓口や人事担当者へ相談し、社内で相談しにくい場合は、都道府県労働局などの総合労働相談コーナーを利用する方法もあります。
判断に迷ったまま一人で抱えず、事実を整理して相談することが次の行動です。個別の法的判断や処分の可否まで確認する必要がある場合は、労働問題を扱う専門家への相談も検討しましょう。









