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日本の伝統「おせち」本来の役割とは?

日本の正月において、おせちを食べることは古くからの慣わしとなっています。
最近では多種多様な商品が販売され、選ぶ楽しみも増えましたが、本来どのような意味が込められているのかご存じない方も多いのではないでしょうか。
元々おせち料理には、元日にお迎えする「歳神様(としがみさま)」へのお供え物という意味合いがありました。神様へお供えし、共に食事をすることで感謝を伝えるのです。
さらに、一昔前まで日本は女性が家事を担う家庭が一般的だったため、「三が日くらいは家事から解放して休ませてあげよう」という労いの意味も込められています。
火や包丁を使わず、のんびりと過ごせるよう、年末のうちに日持ちする料理を作り置きしておく。おせちには、そんな先人たちの知恵と家族への優しさが詰まっているのです。
おせち料理に入れてはいけない6つのNG食品

おせち料理は神様にお供えするものであり、家族の休息のための保存食でもあります。これを踏まえた上で、伝統的なマナーや衛生面の観点から「使ってはいけない」「避けるべき」と言われてきた食品や行為を紹介します。
1. 牛や豚などの「四つ足の動物」
古くは天武天皇の時代(675年)まで遡りますが、当時の仏教的な背景から「殺生禁止」の考えが広まり、肉食、特に四つ足の動物を食べることが公には避けられてきました。
また、「四つ足=足が速い」ことから「福が逃げる」と連想されたとも言われています。そのため、伝統的なおせちでは牛肉や豚肉は不適当とされ、代わりに「二本足」である鶏肉などが使われてきた歴史があります。
鶏は「とり」という言葉が「(運を)とりこむ」に通じ、縁起が良いとされています。
2. 刺身などの「日持ちしない生もの」
おせち料理の最大の目的の一つは「保存」です。冷蔵庫がなかった時代、三が日の間ずっと常温で置いておく必要があったため、生の魚介類や加熱していない野菜は避けられてきました。
傷みやすい食材を入れると、重箱の中の他の料理まで腐らせてしまう恐れがあるため、衛生上の観点から「NG」とされています。
例えば、紅白なますのように酢で締めて防腐効果を高めたものは例外ですが、水分の多い生野菜のサラダや刺身などは、お重には詰めないのが鉄則です。
3. 食べる時に「包丁」が必要な食材
正月当日に包丁を使って食材を切るという行為は、「縁を切る」ことを連想させるとしてタブーとされてきました。
また、刃物を使うことは怪我のリスクもあり、平穏であるべきお正月に騒ぎを起こさないという配慮もあります。そのため、おせち料理には食べる直前に包丁を入れなければならない食材は避けるのがマナーです。
かまぼこやハム、チャーシューなどは、必ず大晦日のうちに切り分けてからお重に詰め、当日は箸だけで食べられる状態にしておきましょう。
4. 食べる時に「火」を使う料理
お正月には「火の神様」も休ませるべきという考え方があり、火を使って煮炊きすることは神様を怒らせる行為として避けられてきました。また、煮炊きをすると「灰(=悪)」が出ることを嫌ったとも言われます。
これは同時に、台所に立つ人が火を使わずに済むようにという、休息への配慮でもあります。お雑煮のように食べる直前に加熱する例外もありますが、基本的におせち料理は「冷めても美味しい味付け」で調理され、温め直しの手間がいらないものが選ばれてきました。
5. 汁気が多く「傷みやすい」料理
煮汁やドレッシングなどの水分が多い料理は、細菌が繁殖しやすく、腐敗の原因となります。また、重箱の中で汁が漏れて他の料理に味が移ったり、見た目が崩れたりすることも避けるべき理由の一つです。
そのため、おせちに入れる煮物は、通常の家庭料理よりも味を濃くし、汁気がなくなるまで煮詰める「炊きしめ」という調理法が用いられます。
水分を飛ばすことで保存性を高め、時間が経っても味がぼやけないように工夫されているのです。
6. 品数が「偶数」になる詰め方
食材そのものではありませんが、詰める「数」にも決まりがあります。古くから奇数は「陽(吉)」、偶数は「陰(凶)」と考えられてきました。
また、偶数は「割り切れる=別れる」に通じるため、縁起が悪いとされます。そのため、お重に詰める料理の品数は、3品、5品、7品などの奇数にするのが良しとされています。
ただし、偶数の中でも「8」だけは例外です。「八」は末広がりの形をしており、将来の繁栄を意味する大変縁起の良い数字とされているため、8品詰めることは良しとされています。
今は気にしなくてOK?現代おせちの「新常識」

ここまで伝統的な「NG」を紹介してきましたが、風習や生活環境は時代とともに変化するものです。冷蔵技術の発達や食文化の多様化により、現代では許容されている「新常識」も多くあります。
ローストビーフなどの「肉料理」は今や主役
かつてはタブーとされた「四つ足」の肉ですが、明治時代以降の肉食解禁や洋食文化の普及により、今ではおせちの主役級メニューとなっています。
ローストビーフや豚の角煮などは、子供や若者にも人気が高く、おせち全体の満足度を高めてくれます。現代において肉は活力の象徴でもあります。
「四つ足禁止」はあくまで過去のしきたりと割り切り、家族みんなが喜ぶメニューであれば、積極的に取り入れても問題ありません。
「冷蔵庫」があれば生ものも自由に楽しめる
現代の家庭には冷蔵庫があります。三が日ずっと常温で放置するわけではないため、衛生管理さえしっかりできれば、刺身やローストビーフなどの「日持ちしない食品」もお正月料理として楽しめます。
ただし、重箱に詰めて長時間テーブルに出しっぱなしにすると傷むリスクは残ります。現代の賢い楽しみ方として、日持ちのしない生ものは重箱には詰めず、食べる直前に「刺身皿」として別盛りにするのがおすすめです。
これなら伝統的なお重のルールも守りつつ、新鮮な魚介も楽しめます。
全部手作りしなくていい。「市販品」活用術
「火や包丁を使わない」という本来の目的を達成するために、市販のおせちやオードブルを活用するのは非常に理にかなっています。
全てを手作りしようとして年末に疲弊してしまっては、元も子もありません。プロが作った保存性の高い料理を購入し、当日は並べるだけにする。あるいは、痛みやすい煮物だけ手作りし、手間のかかるものは購入するなど使い分ける。
これは「家事をする人を休ませる」というおせちの精神に、最も適した現代の方法と言えるでしょう。
ルールよりも「感謝の気持ち」が大切

おせち料理にまつわる様々な「NGルール」を紹介しましたが、これらはすべて、神様への敬意や家族の健康、そして家事からの解放を願う「優しさ」から生まれたものです。
現代において、形式的なルールを守るあまり、準備に追われて疲弊してしまっては本末転倒です。「牛肉を使ってはいけない」「手作りでなければいけない」といった縛りに苦しむ必要はありません。
時代が変わっても変わらないのは、新しい年を無事に迎えられたことへの感謝と、家族の幸せを願う心です。伝統的な意味を知った上で、それぞれの家庭に合ったスタイルで、笑顔の絶えないお正月を過ごすことこそが、一番の「縁起物」と言えるのではないでしょうか。









