エスカレーターは左と右、どちらに立つべき?地域による違いがあるって本当?

エスカレーターで右と左、どちらに立つのが正解なのか。関東と関西の違い、全国の地域差、なぜそうなったのかをやさしく整理します。あわせて、近年広がる「歩かず立ち止まる」という考え方も押さえて、迷いやモヤモヤを減らします。

エスカレーターの立ち位置、意識したことある?

エスカレーターに乗る女性

エスカレーターに乗るとき、立つ位置を意識することはあまりないかもしれません。

ところが、出張や旅行でいつもと違う駅に行くと、前の人の立ち位置が逆で「あれ?」となることがあります。左右どちらが正解なのか気になるのは、自然な反応です。

このテーマは、地域ごとの慣習としての面白さがありつつ、実は安全の話にもつながります。右か左かの答えを探しながら、いま大事にされている考え方まで整理していきます。

右立ち?左立ち?全国ではどっちが多い?

「関東は左、関西は右」とよく言われますが、全国を一言で言い切れるほど単純でもありません。ここでは、調査で語られやすい“傾向”を押さえたうえで、例外が出やすいポイントもまとめます。

左に立つ地域が多いと言われる

アンケート型の調査紹介では、「エスカレーターでは左に立つ」と答える人が多い都道府県が多数派、という結果が出ています。2016年の紹介では、38都道府県が「左が多い」という扱いでした。

この手の数字は、時期や集計方法で揺れます。ただ、「左に立つ」ほうが全国的に多いと言われやすいのは、全体像として押さえておいて損はありません。

右に立つ地域もある

一方で、右に立つ文化が根づいている地域もあります。上の調査紹介では、関西圏を中心に「右が多い」とされる都道府県が挙げられており、いわゆる「大阪だけ」とは言い切れない形になっています。

実際の場面では、同じ県内でも駅や施設によって雰囲気が変わることがあり、「この県だから絶対こっち」と決めつけるほど確実ではないのが正直なところです。

同じ地域でも混ざる場所がある

左右が混ざりやすいのは、乗り換えが多い大きな駅や、観光客・出張者が多い場所です。普段の習慣が違う人が同じエスカレーターに集まるので、列がきれいにそろいにくくなります。

こういう場所では、床の表示や掲示があればそれを優先し、なければ前の人の立ち位置に自然に合わせる人が増えます。

海外は右が多い?国や都市で違う

海外の話になると「世界標準は右」と言い切りたくなりますが、実際は国や都市、交通機関で運用が違います。たとえばロンドン交通局(TfL)の案内では、右側に立ち、左側を歩く人のために空ける運用が前提として扱われています。

ただロンドンでも、混雑対策として「両側に立つ」を試した例があり、ホルボーン駅の取り組みでは、立ち方を変えることで最大で約30%多く運べたという趣旨が公表されています。

海外を引き合いに出すなら、「右か左か」より「その場の表示と運用に従う」がいちばん確実だと言えます。

どうして関東と関西で違うの?

左右の違いを知ると、「じゃあ、なぜそうなったの?」が気になりますよね。はっきり一つに決まった理由があるというより、いくつかの出来事や状況が重なって定着した、と考えるほうが自然です。

ここでは、よく語られる説のうち、筋が通っていて説明しやすいものから整理します。

関西の右立ちは阪急の案内がきっかけ説

関西で右側に立つ習慣の説明として、よく出てくるのが阪急の話です。

1967年ごろ、阪急梅田駅に長いエスカレーターが設置された際、「歩く人のために左側を空ける」趣旨の案内が流れたことが、右立ちの定着につながったという見方が紹介されています。

当時は「立ち止まる人」と「歩く人」を分けて、混雑の中でも動きやすくする意図があった、と説明されることが多いです。

今の感覚で見ると当たり前の工夫にも見えますが、こうした案内が繰り返されると、乗り方そのものが「その土地の当たり前」に変わっていきます。

ただし、なぜ左側を歩行スペースとして想定したのかなど細部は、資料が十分に残っていないとも言われます。記事では「有力な説」として扱うくらいがちょうどよいでしょう。

万博説や右利き説は「諸説」として知っておく

大阪万博(1970年)に向けて、海外からの来訪者を意識して右立ちを徹底した、という話はよく聞きます。

ただ、当時の混雑を考えると片側を空ける余裕がなかったのではないか、そもそも強い呼びかけがあったのかははっきりしない、という見方もあります。

また「右利きが多いから右側に立つほうが自然」といった説明も見かけますが、これも決定打として断言するより、「そう言われることがある」程度に留めるのが安全です。

阪急側も「詳しい資料は残っていない」とされるため、きれいに断定しないほうが読者の納得につながります。

関東の左立ちはいつから広まった?

関東の左立ちについては、関西のような単一の出来事よりも、駅の使われ方や人の流れの中で徐々に定着していった、と説明されることが多いです。

最近は、関東の立ち位置の形成過程を文献で検討する研究も出てきており、「最初から全国で固定されていた」よりも、変化しながら形づくられた慣習として捉えるほうが筋が通ります。

つまり、左右の違いは「地域性」というより、「広まり方が違った」ことの結果とも言えます。

右か左かより大事な「歩かず立ち止まる」

右立ち、左立ちの話は地域の違いとして面白い一方で、乗り方を考えるうえでもっと大事なポイントがあります。

それは、エスカレーターがそもそも「歩くための設備」ではない、という考え方です。左右のどちらに立つかよりも、ここを知っているかどうかで、判断がぐっと楽になります。

歩くと起きやすいトラブル

エスカレーターで歩くと、前の人との距離が一気に縮まり、ちょっとした動きで接触が起きやすくなります。

転倒や衝突だけでなく、衣類のすそや靴ひもが巻き込まれるといった事故にもつながりかねません。日本エレベーター協会も、エスカレーターは本来立ち止まって利用する前提であり、歩行は思わぬ事故につながる恐れがあると注意喚起しています。

消費者庁も、巻き込みや転倒などの危険に触れながら、手すりを持つことや黄色い線の内側に立つことなど、具体的な安全行動を示しています。

片側を空けると困る人もいる

片側を空ける慣習は「急ぐ人のため」という気遣いから生まれた面があります。

ただ、右手や左手のどちらかでしか手すりを持てない人、付き添いの人と並んで乗りたい人にとっては、片側空けがプレッシャーになったり、すれ違いが怖く感じたりすることもあります。

鉄道事業者などが共同で行うキャンペーンでも、片側空けの習慣が「手すりを片手でしかつかめない人」にとって危険になり得る、という趣旨が理由として示されています。

立ち止まって乗ろうという呼びかけ

近年は、鉄道事業者などが合同で「歩かず立ち止まろう」を呼びかける取り組みが続いています。

国の機関が後援として名を連ねる形で案内されており、「左右どちらかを空ける」より「立ち止まって安全に」へ、考え方を寄せていこうという流れがはっきりしています。

また、自治体によっては「立ち止まって利用」を条例で定めている例もあります。埼玉県は2021年に条例を施行し、エスカレーターでは立ち止まって利用することを周知する枠組みを作りました(罰則は目的ではありません)。

名古屋市も条例に基づき「歩かず、左右両側に立ち止まって」といった形で、より分かりやすい呼びかけをしています。

まとめ

エスカレーターの立ち位置は、関東と関西で違いがあると言われますが、全国で一つの正解が決まっているわけではありません。だからこそ、その場の流れに合わせるのが自然です。

ただ、左右の違いを知ったうえで覚えておきたいのは、エスカレーターは歩くことを前提にした設備ではないという点です。急ぐ気持ちは誰にでもありますが、急ぐ人に合わせて周囲が無理をするほど、空気はギスギスしやすくなります。

立ち位置の話は「土地の作法」として楽しみつつ、移動の場では安全と気持ちよさを優先する。そういう選び方が、これからの街の当たり前になっていくのかもしれません。

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