人間が進化の過程で失ったもの13選…体の中に眠る“昔の能力”とは

私たち人間は、長い進化の中で多くの能力を獲得してきました。その一方で、環境や生活の変化に適応する過程で、かつて持っていた機能を手放してきた歴史もあります。本記事では、科学的に確認されている「失った能力」と「失われつつある能力」をわかりやすく紹介します。

進化とは「得る」ことだけでなく「手放す」ことでもある

進化というと、新しい能力を得たり、体の構造が高度化したりするイメージがあります。しかし、生物が進化する過程では、使われなくなった器官や機能を手放すことも多くあります。

これは「退化」と呼ばれる現象ですが、実際には無駄を省くための自然な変化です。

たとえば、暗闇で生活する生物が目の機能を失ったり、水中生活から陸上生活へ移った動物がヒレの一部を失ったりするのもその一例です。人間も例外ではありません。私たちの体のあちこちには、過去に必要だった機能の名残が今も残っています。

このような機能喪失は「選択緩和」と呼ばれるしくみで説明されます。ある器官が生存にほとんど影響を与えなくなると、その維持に使われるエネルギーが無駄になり、長い年月の中で徐々に退化していくのです。

つまり、退化とは能力の低下ではなく、環境に合わせた“合理化”の一種といえます。

人間が進化の過程で失ったもの(能力)

ここでは、科学的に「失われた」と確認されている能力や器官を紹介します。多くは遺伝子変化や化石の証拠によって裏づけられており、進化がどのように働いたかを知る手がかりとなっています。

1. 尾(尾てい骨)

人間を含むヒト上科の祖先は、かつて動物と同じように尻尾を持っていました。尾は体のバランスを取るために重要でしたが、二足歩行を始めたことで役割が薄れました。

研究によると、TBXT遺伝子に生じた変化が尾の形成を止めた可能性が高いとされています。尾がなくなったことで直立姿勢が安定し、手を自由に使えるようになったという利点も生まれました。

現在、尾の名残は「尾てい骨(びこつ)」として私たちの体に残っています。まれに、尾のような突起を持って生まれる赤ちゃんがいますが、これは進化の名残が形として現れた非常に珍しい例です。

2. 体毛と立毛筋の機能

初期の人類は全身を体毛で覆われており、寒さや紫外線から体を守る役割を果たしていました。しかし、約200万年前に二足歩行が定着し、体温調節の仕組みとして「発汗」が発達します。その結果、体毛は不要になり、少しずつ薄くなっていきました。

動物が寒さを感じると毛を逆立てて保温しますが、人間ではその反応がほとんど機能していません。寒さや感動を覚えたときに立つ「鳥肌」は、毛を動かす筋肉「立毛筋」が残っている証拠です。

つまり鳥肌は、かつての体毛を操る仕組みが今も体内に残っている“進化の証拠”なのです。

3. ビタミンCを作る能力

ほとんどの哺乳類は、自分の体内でビタミンCを合成できます。しかし人間はその能力を失いました。

原因は「GULO遺伝子」が壊れてしまったためです。この遺伝子が働かなくなったのはおよそ4,000万年前とされ、以来、私たちは食べ物からビタミンCを摂取するしかなくなりました。

この変化は不利に思えますが、当時の人類の祖先は果物を多く食べており、外部から十分な量のビタミンCを得られたため問題にならなかったと考えられています。

進化とは、環境に合わせた“取捨選択”の結果であることがよくわかります。

4. 尿酸を分解する酵素

私たち人間は、ほとんどの哺乳類が持っている「尿酸を分解する酵素(ウリカーゼ)」を失いました。

この酵素は、老廃物である尿酸を分解して体外に排出する役割を持ちます。しかし、進化の過程で「UOX遺伝子」が壊れ、尿酸が分解されにくくなったのです。

この変化はおよそ1,500万年前に起こったとされます。

尿酸が体内に残ることで、ビタミンCの代わりとなる抗酸化作用が働き、老化や細胞の酸化を防ぐ効果があった可能性があります。

一方で、現代では尿酸値の上昇が痛風などの病気を引き起こす原因にもなっています。 つまり、進化で得た利点が、環境の変化によって新たなリスクになることもあるのです。

5. 匂いで伝える能力(フェロモンを感じる機能)

多くの動物は、フェロモンと呼ばれる化学物質を使って仲間や異性と情報を交換します。これを感じ取る器官が「鋤鼻器(じょびき)」です。

しかし人間の場合、この器官は退化しており、成人ではほとんど機能していません。

研究によると、ヒト科がサルから分かれたおよそ2,300万年前の段階で、この機能を支える遺伝子の多くが働かなくなったと考えられています。

人間が視覚や言語でのコミュニケーションを重視するようになり、匂いによる情報伝達の必要性が低下したためです。

今でも鼻の内部にその痕跡はありますが、神経とつながっていないため、信号を脳に送ることはできません。

6. 顎の力と親知らず

人類の祖先は、硬い植物や生肉を噛み砕くために強い顎と大きな歯を持っていました。

しかし、火を使うようになり、食事が柔らかくなると、咀嚼の力が必要なくなっていきます。顎は徐々に小さくなり、歯の数も減りました。

その影響で、現代人では「親知らず(第三大臼歯)」が生えるスペースが足りなくなっています。統計的には、約20~25%の人が生まれつき親知らずを持たないとされています。

これは、顎の縮小が進化の結果として遺伝的に固定されつつある証拠です。

7. 耳を動かす能力

犬や猫のように、耳を動かして音の方向をすばやく察知する能力を持つ動物は多くいます。

人間にも「耳介筋」と呼ばれる耳を動かすための筋肉が残っていますが、ほとんどの人はこれを意識的に使えません。

興味深いことに、実験では大きな音がした方向に反応して耳介筋がわずかに動くことが確認されています。

つまり、耳を動かす神経の仕組みは残っているのです。 退化したように見える能力でも、体の中には“かつての名残”が静かに生きているということがわかります。

現代で失われつつある人間の能力

ここからは、完全に消えたわけではないものの、現代の生活によって使われなくなり、弱まりつつある能力を紹介します。

遺伝子よりも生活環境の影響が大きく、文化的な進化の側面が強いものです。

8. 匂いをかぎ分ける力

都市生活では、食べ物の鮮度や危険を匂いで判断する機会が少なくなりました。また、香料や消臭製品の普及により、匂いそのものが生活の中から減っています。

その結果、人間の嗅覚は動物に比べて鈍くなり、嗅覚を司る脳の領域も縮小したといわれています。

とはいえ、嗅覚は完全に失われたわけではありません。懐かしい匂いで記憶がよみがえるように、匂いは感情や記憶と深く関係しています。

使う機会が減っても、脳の奥ではしっかり働き続けているのです。

9. 暗闇で物を見る力

人間の目は、明るい場所での色の識別に優れています。

その一方で、夜や暗闇では物を見分ける力が弱く、猫やフクロウのような夜行性動物には遠く及びません。

これは、夜間でも照明がある生活に適応した結果だと考えられています。暗い場所での視力を担う「桿体細胞(かんたいさいぼう)」よりも、明るい場所で働く「錐体細胞(すいたいさいぼう)」の方が発達しているのです。

暗闇に強い視力を失った代わりに、私たちは昼間の視覚情報をより細かく処理できるようになったともいえます。

10. 方向感覚と空間の把握

地図やGPSアプリの普及によって、道順を自分で覚える機会が減りました。

脳の中で位置情報を処理する「海馬(かいば)」の活動が、方向感覚を鍛える鍵といわれていますが、最近の研究では、デジタルナビに頼る人ほどこの部分の活動が弱い傾向があることが示されています。

方向感覚を取り戻すためには、実際に地図を見ずに歩いたり、景色の特徴を記憶することが効果的とされています。

進化の流れの中で鍛えられた感覚を、現代人は使う機会を失いつつあるのです。

11. 覚えておく力(記憶力)

電話番号や住所を覚えることが当たり前だった時代に比べ、現代ではスマートフォンや検索エンジンに頼ることが増えました。

必要な情報をすぐに調べられる環境が整ったことで、記憶するよりも「検索する」方が効率的になったのです。

この変化は一概に悪いとはいえません。私たちは、記憶を正確に保持する力を一部失う代わりに、情報を取捨選択して扱う力を得ました。

記憶の“外部化”は、新しい時代の知性の形ともいえるのです。

12. 自然を感じ取る直感

かつて人類の祖先は、天気や季節の変化を感覚的に読み取りながら生活していました。

空の色や風の向き、動物の行動など、自然のわずかな変化から危険や食料のありかを察知していたのです。

現代では天気予報やデジタル機器に頼るようになり、そうした直感的な感覚は薄れています。自然の中で生きる時間が減ったことで、五感を通じて得られる情報量そのものが減っているのです。

しかし、この感覚は完全に失われたわけではありません。自然の中で過ごすことで再び研ぎ澄まされることが多く、体の奥に眠る“野生の記憶”を呼び覚ますことができます。

13. 体力と筋力

昔の人々は、長距離を歩き、重いものを運び、狩りをするなど、体を日常的に使っていました。しかし、現代では車や公共交通機関、家電製品の普及によって、体を動かす機会が大幅に減っています。

その結果、筋肉量や心肺機能が低下し、いわば「省エネ型の体」になりつつあります。

研究では、20世紀後半から平均的な握力が徐々に低下していることも報告されています。 便利さの進化が、体の進化に“逆行”する要素を生み出しているともいえるでしょう。

まだ議論が続く「失われた能力」

科学的な証拠が十分にそろっていないものの、「人類がかつて持っていたかもしれない能力」として注目されるテーマがあります。

確定的な事実ではなく、あくまで研究段階の仮説として紹介します。

第三の目(顱頂眼)

一部の爬虫類や魚類には、頭の上に光を感じ取る「顱頂眼(ろちょうがん)」があります。古代の哺乳類の祖先にも同様の器官が存在した可能性があり、人間ではその名残が脳の「松果体」として残っていると考えられています。

ただし、松果体が光を感知していた証拠はなく、「第三の目」という表現は比喩的なものに近いとされています。

電気を感じる能力

サメやカモノハシなど、一部の動物は水中で電気を感じ取る能力を持っています。初期の脊椎動物には同様の仕組みがあったとされ、人間の祖先にもその痕跡があった可能性が指摘されています。

しかし、陸上生活への適応によりこの能力は不要となり、進化の過程で失われたと考えられています。現時点では化石や遺伝的証拠が不十分であり、あくまで仮説の段階です。

足の小指の役割

二足歩行が定着すると、足の小指の重要性は減りました。近年では、靴を履く生活や平らな地面での歩行が続いたことで、小指がさらに小さくなっているといわれています。

ただし、これは個人差が大きく、進化的変化として確定しているわけではありません。歩行のバランスに関わる筋肉や骨の構造が変化していないため、「将来的に小指がなくなる」という予測には根拠が薄いと考えられています。

これからの人類の変化と進化

これまで紹介してきた進化は、主に自然な環境への適応の結果でした。しかし、現代の人間はテクノロジーや医療の進歩によって、生き方や進化そのものを人為的にコントロールする段階に入っています。

遺伝子編集技術「CRISPR(クリスパー)」の登場で、生まれる前の段階で病気を予防したり、望ましい能力や特徴を与えたりすることも可能になりつつあります。

また、AI(人工知能)と人間の能力を組み合わせる技術や、ロボット義肢による身体の強化も現実的なものとなっています。

こうした技術の発達がもたらす変化としては、次のようなものがあります。

  • 寿命の大幅な延長
  • 病気や障害の克服
  • 身体能力や感覚器官の人工的な向上
  • 脳とコンピューターを接続し、記憶や知性を外部化すること

ただし、技術を使った進化には倫理的な問題も伴います。

能力や外見の人工的な改変が一般化すれば、社会的な格差や差別が深刻化する可能性があります。進化が「自然任せ」ではなく、「人間の選択」によって決まる時代になってきているのです。

人類が進む道は、科学の進歩だけでなく、私たち自身の倫理観や価値観によっても左右されるでしょう。 これからの進化のあり方は、私たち一人ひとりがどのような未来を望むかにかかっているといえます。

まとめ

人類が進化の過程で失った能力は、単に「退化したもの」ではありません。それらは環境や生活に合わせて変化した「合理的な適応」の結果です。

大切なのは、進化の目的が常に「生存と繁栄」であること。失われた能力がある一方で、私たちは言語や文明を手に入れ、人間社会を作り上げてきました。進化の物語はまだ終わりではありません。私たちはこれから先も変化し続ける存在なのです。

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