賃貸ハウスクリーニングの特約は拒否できない?無効にできない理由について解説

この記事では、賃貸ハウスクリーニング特約についての現状と、拒否や無効化できるのかどうかという点について解説していきます。借主が理解すべき重要なポイントを紹介していきますので、現在賃貸に住んでいる方、これから不動産物件の契約を控えている方必見の内容です。

賃貸ハウスクリーニングの特約は、一部の例外を除いて借主が拒否したり、無効にすることが難しいことがほとんどです。では、なぜ借主が不利になる特約を拒否したり無効にすることはできないのでしょうか。

そもそも、ハウスクリーニング特約とはどんな条約なのでしょう。まずは、基本的なことを見ていきましょう。

賃貸ハウスクリーニングの特約は拒否できない

賃貸ハウスクリーニング特約は、基本的には拒否できません。

賃貸ハウスクリーニング特約とは、賃貸物件に入居する際に契約書に含まれる条項の一つで、退去時に物件をクリーニングすることを定めた特約です。

これは、入居者が退去する際に、部屋や建物を元の状態に戻すために行うクリーニングの費用について定められています。

一般的に、物件を退去する際のハウスクリーニングは、貸主(オーナー)もちになりますが、この特約があると借主(入居者)が負担することになってしまいます。この特約は、大手不動産会社であれ、町の小さな不動産会社であれ、約9割の不動産物件の契約条件に盛り込まれています。

契約時に、この特約の拒否を申し出ると場合によっては、特約を解除してくれることもあるようですが、大半は「できない」と断られるケースが多いのが現状。そのため、特約の拒否は基本的に難しく「割り切る」ことが必要になります。

また、クリーニング費用は、敷金から差し引かれることもあれば、別途請求されることも。契約時に、内容をしっかり把握しておくことが大切です。

ハウスクリーニング費用のルール

ハウスクリーニング費用は、国土交通省のガイドラインで決められた「ルール」が存在します。このルールは、不動産契約を交わす時に重要になるポイントでもあるので、しっかり覚えておきましょう。

本来ハウスクリーニング費用は貸主負担

基本的に退去時に伴うハウスクリーニングの費用は、貸主が負担する必要があります。

国土交通省の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」によると、『(考え方)賃借人が通常の清掃(具体的には、ゴミの撤去、掃き掃除、拭き掃除、水回り、換気扇、レンジ回りの油汚れの除去等)を実施している場合は次の入居者確保のためのものであり、賃貸人負担とすることが妥当と考えられる。』とあります。

言い換えると「借主が、日頃から”通常の清掃”を行っていれば、借主はクリーニング費用を負担する必要はない」ということです。

国交省の「原状回復の原則」によると、「通常使用による損耗、経年劣化、専門業者に依頼するような清掃は貸主が負担する」とあります。なので、これに記載のあるもの以外の費用は、借主が負担するということになります。

怒りに任せて壁に穴をあけたり、わざと壁に傷(画鋲もNG)を付けたりなどの行為をせず、通常の生活をしている限りは、退去時に借主が金銭的負担(ハウスクリーニング費用を含め)をする必要はないのです。

特約で借主にハウスクリーニング費用を請求できる

基本的に、退去時に借主が金銭的な負担をする必要はないものを借主に負担させるのが「特約」です。契約時にハウスクリーニング特約を結ぶと、退去時のハウスクリーニング費用は借主の負担になってしまいます。

特約は次のような要件を満たすことによって、特別に借主に負担を課すことができます。

  1.  特約の必要性があり、かつ、暴利的でないなどの客観的、合理的理由が存在すること
  2. 賃借人が特約によって通常の原状回復義務を超えた修繕等の義務を負うことについて
    認識していること
  3. 賃借人が特約による義務負担の意思表示をしていること

参考:国土交通省「原状回復をめぐるトラブルとガイドラインより」

例えば、「いかなる理由にせよ退去時のクリーニング費用は借主が負担する」などの特約があった場合、「1. 特約の必要性があり、かつ、暴利的でないなどの客観的、合理的理由が存在すること」を満たさず無効になる場合もあるということです。

特約の内容を見落としたり、そもそも「退去時のハウスクリーニング費用は借主が負担するもの」と認識している人も多く、「原状回復の原則」や「特約の要件」を知らずに特約を結んでしまうケースがほとんど。

この特約は、賃貸借契約条件の中に組み込まれていることがほとんどで、「ハウスクリーニング費は貸主が負担する」という正しい知識をもたない限り、特約により借主が損をすることも珍しくありません。

もちろん契約を交わした以上、退去時に気づいたところで特約を無効にすることはできません。それが特約の厄介なところです。

特約の内容によっては無効となった判例もある

過去には、特約が裁判で無効になったケース(東京地方裁判所判決 平成21年1月16日)もあります。

この裁判は、貸主の特約の内容について、常識を外れた、あまりにも貸主側が有利な内容のため無効になった判例です。

訴えたのは借主。その内容は「入居時に敷金・礼金合わせて80万円近く支払い済みの上、居住期間は8か月なのに敷金の払い戻しがなく、さらに追加請求された」というものです。判決は借主側が勝訴し、敷金43万6000円が返還されました。

この裁判のポイントとなった特約の内容は、次のようなものでした。

賃借人の原状回復として入居期間の長短を問わず、本件居室の障子・襖・網戸の各張替え、畳表替え及びルームクリーニングを賃借人の費用負担で実施すること
(第19条5号)
退去時の通常損耗及び経年劣化による壁、天井、カーペットの費用負担及び日焼けによる変化は負担割合表によることとし、障子・襖・網戸・畳等は消耗品であるため居住年数にかかわらず張替え費用は全額賃借人の負担となること(第25条2項、負担割合表)

これに対し、東京地裁は次のような理由で、借主の返還請求を認めました。

通常使用している状態で生じた通常損耗及び経年劣化分については、借主に原状回復を求める特約を定めるものと認められない
原状回復における単価表(畳修復費○○円、障子修復費○○円など)がない状態で、借主がそれについて明確に認識し、合意することはできない。よって、特約に合意したとは認められない
入居時に敷金とは別に礼金(家賃2ヶ月分)を納めているのに、たった8か月使用しただけでその敷金を全額失うことになるのは客観的に見てもおかしい

簡単に説明すると、

「日常の経年劣化などの費用は貸主が負担すべきであり、そのほかの修繕費は、契約時、ハウスクリーニング特約に合意したからといって、明確な金額がない上に、それを借主が「認識」し請求するのは認められるわけがない。」

「さらに、入居時に合わせて80万近く入金しているのに、8か月住んだだけで、全額お金が戻ってこないのは普通に考えてもおかしい。」

ということです。

このように、明らかに貸主に有利に働いている、常識を大きく逸脱する内容であれば、特約を無効にできるケースも稀にあります。

現状は借主負担となるケースがほとんど

先のように稀なケースでは特約が無効になることもありますが、基本的には借主負担となることがほとんど。

貸主側の多くは、賃貸借契約書に特約内容を明記しています。例として、「エアコン内部洗浄は借主負担」「鍵交換の費用は借主負担」「クリーニングは貸主指定の業者で行い、費用は借主が負担する」などがそれに該当します。

つまり、常識の範囲内の要件を満たした内容の特約を明記している場合、それに同意した時点(契約を交わした)で借主が負担するしかなくなるのです。

特約内容が客観的に見てもおかしい、常識から逸脱しているなどであれば、認められないケースもありますが、貸主側は不利にならないように、しっかり明記して特約を作っていることを理解しましょう。

特約を無効にするには交渉しかない

約9割の物件の条件に記載されている特約。これを無効にする方法は、貸主側との「交渉」です。ただし、交渉は必ず「契約前」に行わなければなりません。

とはいえ、交渉しても断られることがほとんどです。どうしてもハウスクリーニング代を無効にしたいのであれば、ハウスクリーニング費用相応か、それ以上の条件提示が必要になります。結局、負担する費用は変わらないため「割り切る」ことが賢明と言えるでしょう。

ただし、国交省のガイドラインの知識をもって交渉すると、特約を無効することができることも。例えば、「国交省のガイドラインには、業者によるハウスクリーニングは貸主負担と記載があるので、この条件は消してください」など。

正しい知識を身に付けることで、特約交渉を有利に進めることも不可能ではありません。交渉前には、国交省のガイドラインを読んでおくと良いかもしれません。

まとめ

今回は、賃貸ハウスクリーニングの特約は拒否できないのか、拒否できない理由について解説しました。

ポイントはこちら。

  • ハウスクリーニングの特約は「基本的」に拒否できない
  • 契約時に「特約」を含めて説明された上でサインをしているため、契約後の「拒否」はほぼ不可
  • 国交省のガイドラインによると、基本的にハウスクリーニング費用は貸主が持つと記載されるが、「特約」を結ぶことで借主負担となってしまう
  • 契約前に交渉すれば、特約を無効できる可能性はあるが難しいことがほとんど
  • 国交省のガイドラインの知識を身に付けて交渉すれば、無効にできる可能性もある

入居前に、賃貸借契約書内容を確認し、不明瞭な点や懸念事項がある場合には、ご自身で調べる、専門家に相談するなど、契約書にサインをする前に必ず明確にしましょう。

本来、賃貸借契約は借主と貸主が互いの権利と義務を尊重することが大切です。特約自体を無効にすることが難しくても、なるべく納得のいく契約を交わせるようにしましょう。

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