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夢を見ていたのに内容を忘れてしまう体験を持つ人は多い
私たちは寝ている間、レム睡眠と呼ばれる浅い睡眠とノンレム睡眠と呼ばれる深い睡眠を繰り返していることがわかっています。そして、一般的にはレム睡眠時に起床するケースが多いことも判明しています。
私たちは寝ている間に夢を見ていると言われていますが、日によって見た夢の内容を覚えていたり、覚えていなかったり、曖昧だったりと異なります。実際「夢を見ていたはずなのに、内容を忘れてしまった」という体験を持つ人は多いでしょう。
今まで、この夢に関する研究はさまざまな説が唱えられてきましたが、2019年9月、名古屋大学環境医学研究所の山中章弘教授のグループが夢に関するある発見をしたことが発表されました。
夢の内容をすぐ忘れてしまう理由は?
では、なぜ私たちは眠っている間に見た夢を忘れてしまうのでしょうか。今回は、名古屋大学環境医学研究所の山中章弘教授のグループが発表した研究結果に基づき、解説していきたいと思います。
起床前のレム睡眠時にMCH神経によって記憶が消去されている
私たちは睡眠中、レム睡眠とノンレム睡眠を繰り返しています。そして、起床前はレム睡眠に入っていることが多く、研究によると、脳にあるメラニン凝集ホルモン産生神経(通称:MCH神経)がレム睡眠中に活性化していることが判明したのです。
元々、過去の研究では、MCH神経が睡眠覚醒に関して何らかの影響を与えていると考えられていました。そこで研究を進めたところ、レム睡眠時に活動しているMCH神経が脳の記憶を形成するための必要不可欠な海馬において、記憶を抑制していることが判明したのです。
起床前はレム睡眠状態であることが多いため、起床直前にMCH神経が働くことで、今まで睡眠中に見ていた夢の記憶を抑制し、結果として、起床後に夢の記憶が消去されているのでしょう。
夢は記憶を定着させるための手段
そもそも、私たちはなぜ夢を見るのかという疑問が湧き起こる人もいるでしょう。夢は、その日にあった記憶をより深く脳に定着させるための手段だと考えられています。
例えば、その日、仲の良い友人を楽しくおしゃべりをした場合、そのエピソード内容を脳に記憶を定着させるため、再びそのエピソードに関連する事柄を呼び起こし、夢として脳内に登場させるのです。これが睡眠中に見る「夢」です。
よく、健康状態や精神状態が夢に現れるという話がありますが、これはその日に負担に感じた出来事(ストレス)に関連する事柄を夢に呼び起こし、起きた出来事を整理しようと脳が働いていることが原因でしょう。
覚えている夢と忘れる夢がある…違いはあるの?
基本的に、多くの夢は先ほど説明したように、レム睡眠時のMCH神経の働きによって消去されてしまいます。そのため、起床時に覚えていないけれど、実際は夢を見ていることが多く、大半は記憶に残りません。
これは、実際にその日に起こった出来事と、そのエピソードを記憶定着させるために見た夢の内容が正確に関連していないため、脳内で矛盾を生じさせないように、そして現実と夢の区別をきちんとつけるために夢の記憶を消去していると考えられています。
しかし、時々睡眠中に見た夢を覚えていることもありますよね。これは、目が覚めた直後に少しだけ曖昧に残っている夢の記憶を、本人が何度も脳内で再生して思い出そうとした結果、記憶に残っている部分だけで改めて夢を記憶しているからです。
したがって、実際に見た夢の全容を覚えているわけではなく、部分的に曖昧な記憶をつなげて「今日見た夢」として記憶を形成していると考えられています。
夢は私たちの記憶を脳に定着させるために必要な過程の1つ
その日に起こった出来事を整理し、記憶を定着させるために重要な要素である睡眠時の夢。しかし、その夢を忘れてしまう理由は、脳が現実と夢の区別をつけようと夢の記憶を消去しているからです。
改めて、私たちの脳は複雑で素晴らしい働きをしていることがわかりましたね!今後も「夢」に関する面白い研究が続けられることを応援しましょう。